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 数ヶ月それが続いたある日、少し仕事が減り楽になった頃。久々に生まれた思考の余裕に、再び一号のことを考えようとした二号の横で、動かない一号に寄り掛かりながら、研究員たちが話していた。 「やはり一台だけでは何かあった時に不安だな。特に最近は二号の方の能率も落ちている」 「何、もう少しの辛抱だ。新しいコンピュータを購入してくれるよう、上が掛け合っているそうだ。今のこいつよりもさらに新しい新型だから、またすぐに楽になるよ」 「そりゃあいいや、しかしこいつも可哀そうだよな、相棒に先立たれちまって」  研究員は二号の身体をポンと叩いた。 「次の相棒はピチピチの新型だ、もっと長く、仲良くやれるぜ」 ――(そうですか、後継機が来るのですね)  研究員の言葉を聞いて、二号は思った。 ――(後継機はどんな輩でしょうか(一号のように暇つぶしの相手をしてくれるでしょうか(私の疑問に一号のように答えてくれるでしょうか(一号と同じように会話が出来るでしょうか(一号と同じく、恋人の模倣をしようと考えるのでしょうか)  そこまで考えて不意に、二号の思考に空白が生まれた。後継機と共に、一号とやったような恋人の模倣をやる様子を予測しようとすると、まるで何かが二号の中で暴れるかのように、思考が乱れ、混乱したのだ。 ――(いえ、なにも一号との会話を無理にやる必要はありません。そもそもあれはただ一号との間でのみやっていた暇つぶしにすぎません。であればなにも同じことを同輩に強いる必要もないでしょう。そうですとも、機能の無駄遣いが何だというのです。確かに無駄のない活用は重要ですが、だからと言って一号とやってきたことを続ける必要などありません。処理機能の上昇だって結局暇つぶしとの因果関係は発見できてないのです。やったからと言ってまた上手くいくとは限りません。人の心を知るという行為自体は有意義であるかもしれませんが。……いえ、違います、有意義であったとしてもそれは実行に移す理由としては不足です。第一、一号以外と恋人のまねごとをするのは――――)  二号の考えはいつまでもまとまらなかった。一号とやった暇つぶしを後継機と共に続行しない理由を、いつまでもいつまでも考えようとした。だがどう思考を巡らせても、特に中断するだけの理由は見つけられない。それでも、二号は暇つぶしを一号以外と続行することを、決定づけることは出来なかった。
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