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──あぁ、本当、尚ちゃんって可愛いなあ……
改めて見て感じる。
肌も、瞼も、艶やかな黒髪も、桃色の唇も。
全てが愛おしい。
気持ちが溢れるのなんて、簡単で。
尚ちゃんの頬に触れて、息もかかるような近さで覗き込んでいた。
「美花ー?」
目を閉じたままの尚ちゃんの声で、私は我に返る。
──私、今、尚ちゃんに、何しようと……
「な、なに?」
うるさい心臓の音が、尚ちゃんに聞こえてしまったらどうしよう。
「もう、塗り終わったかなって?」
「う、うん。塗り終わったよ」
「わあ!ホントだ!」
尚ちゃんはドレッサーの鏡を見て、子供みたいに喜ぶ。
私は尚ちゃんにこの気持ちが知られたらどうしようかと、ハラハラしっぱなしだった。
尚ちゃんを駅まで送るために、林に車を出してもらう。
後部座席、隣には尚ちゃんがいる。
私の心臓は爆発寸前だ。
先ほどの出来事に気付いていない尚ちゃんは、悠長にあくびしている。
林はミラー越しにチラチラと、こちらを窺っていた。
何か話をしろという合図なのだろう。
結局、一言も話さないまま駅に着いてしまった。
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