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そんな勇気もないし、そもそも絶対にできないって思うからしないつもりです。
でも、そんなわたしでも、見つづけることだけはしたかった。
こうして毎日彼の顔を見つづけていたかったんです。
他には何も望んでなかった。
ずっと、彼の顔を、朝と夕だけ見ていられれば……。
でもその日々ももう、おしまいです。
彼はもうすぐ卒業してしまう。
そして、もう二度と会えなくなってしまう。
この恋は、自然消滅してしまうんです。
勝手にわたしの中だけに生まれて、勝手にわたしの中だけで無くなってゆく、恋――。
刻一刻と別れが迫って来ていたある日。
日下部くんは……目の前で車に轢かれてしまいました。
朝一番の通学途中。
相手は、べろべろに酔っぱらった人の運転する車、でした。
自転車が音を立ててふっとばされて。
日下部くんは人形みたいに転がって。
動かなくなりました。
あたりには誰もいません。
わたしだけ。わたしだけが見ています。
「日下部、くん……」
どうしよう。どうしたらいい?
助けを呼ばなくちゃ。
でも……。
わたしはもうすでに死んでしまっていたから、何もすることができませんでした。
「ごめん、ごめんね……」
動かない車。
時間が止まったかのような事故現場。
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