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そこからどうやって教室に帰ったのか覚えていない。放課後、私は震える足で地理歴史教室に辿り着き、椅子に座らずに机を見た。たくさんの落書きが消しゴムで消され、ポツンと彼の落書きだけが残されていた。そこには『令和ってなに?』と書かれていた。
『今年の五月から元号が変わって令和元年になったんだよ』
あれだけ話題になった元号を、知らないはずがない。きっと惚けているんだと私は思い、震えながら文字を書いた。するとすぐに机の上に文字が浮かび上がってきた。誰もいないのに、まるで透明な鉛筆がそこにあるかのように、彼の綺麗な文字が書かれていく。
『そんなの知らない。まだ平成だよ』
「どうしてそんな嘘をつくの?」
『ホントだよ。君こそ、元号が変わるなんて聞いたこともないよ』
なにがどうなっているのかわからなかった。彼はあの授業にはいなくて、しかも平成が続いていると言い張っている。そして文字が勝手に浮かびあってくるこの現象は一体なんなのだろうか。私には到底理解できず、狼狽して頭を抱える。
『もしかしてドッドボールを知らない?絵しりとりでプリンアラモードの次に描いたんだけど』
あのおにぎりを棒で殴っている絵のことだろうか。私が「知らない」と書くと『俺のとこじゃメジャースポーツだよ』と返ってきた。ドッドボールなんて、聞いたこともなかった。次々に書かれていく事実に、私は何か恐ろしいことに気付きそうになっていた。
『俺達、もしかしたらパラレルワールドにいるのかもしれないね』
「パラレルワールド?」
『ほとんど一緒なんだけどどこか違ってたりする世界のこと。隣合う世界でも決して交わることのないんだ』
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