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「春子、今日100円バトルね。梅子と桃子にも言っておいてね」
明美ちゃんは私にそう言うと、日直の仕事に向かった。100円バトルとは、学校の近くにある個人商店、松崎商店で100円の品物を買い、誰が1番優れた商品を買ったか競う遊びだ。私はこれに勝った事がない。どんな良い物を買ったつもりでも、梅子ちゃんと桃子ちゃんはいつも明美ちゃんの味方をする。おこづかいの無駄だし、正直やりたくはない。
でも、それを言ってしまうと明美ちゃんはきっと怒るだろう。怒らせるのは面倒臭い。前にうっかり怒らせてしまった時は、1週間口をきいてもらえなかった。梅子ちゃんも桃子ちゃんも、明美ちゃんが私を許すまで、一緒になって無視してきた。あの時の孤独感は忘れられない。最終的に深く頭を下げて謝罪したら渋々許してくれたけど。
放課後、ランドセルを家の玄関に放り投げて、松崎商店へ走る。早くしないと明美ちゃんに怒られる。
息を切らして松崎商店まで行くと、みんなもう来ていた。
「やっと春子来たよ。じゃあ、今日は春子と梅子の勝負ね。早く買ってきなよ」
待ちくたびれた様子の明美ちゃんが、私達に命令する。何でいつもこんなに偉そうなの?という言葉を飲み込み、入店して適当に買い物をする。今回はイチゴの香り付き消ゴムを買ってきた。どうせ勝てないなら少しでも自分の欲しい物を買いたい。
一方、梅子ちゃんは、亀の子タワシを買っていた。
店を出て、勝負開始。私と梅子ちゃんは商品のプレゼンをする。
「授業中の癒しになると思って、イチゴの香り付き消ゴムを買ったよ」
「うちのタワシ、そろそろ換え時だから、お母さんにあげようかと」
結果はやっぱり、梅子ちゃんの勝ちだった。自分の為じゃなく、お母さんの為にというのが勝因だねと明美ちゃんは梅子ちゃんに笑いかけた。
「春子も自分の事ばかりじゃダメだよ。人の為になる事も考えようね」
明美ちゃんの言葉に、欲しくて買った筈の消ゴムが、急に恥ずかしい物になった気がした。自分の為の買い物はダメなの?
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