卵と殻とAIロボット

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 開いたまま落ちた古語辞典は、三百七十頁。その左下には赤色のマーカーで印がつけられていた。博士はこれを見て、微笑まれたのだ。 あなたにお逢いするためならば 死んでも惜しくないと思っていた命ですのに お逢いした今では いつまでも長く一緒にいたいと思うようになりました  私は古語辞典を拾い上げ、お二人を見つめた。 「博士、博士なら解決出来たかもしれないのに! 動物実験なんて今更でしょう? 私たちだってゲノム編集で産まれたのだから、人工精巣も卵巣も子宮も作れるでしょう!」 「……アリマ」  博士は深呼吸をして、アリマ様と向き合った。 「完全などないことは、君は、君たちはよく知っているだろう?」  博士は残酷なまでに冷静沈着に仰った。  アリマ様は目を見開いて項垂れた。 「命を動かす機械装置は作られても、命を産み出す機械装置は作られない。いや、作ることが出来ないんだ」 「でも!」 「私はあくまでも、機械で産み出すことしか出来ない。命の犠牲で成り立つ土壌で、命を産み出すことは出来ない」     
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