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私は、まだ言葉も話せない小さなスバル様に添う形でここに置かれ稼働した。考えてみれば、お二人に限らず、他の住人も含め過去の話を聞いたことはほぼなかった。そう考えると、これはとても新鮮な会話である。
「理論上は可能だったはずなのに、どういうわけか失敗した。そこかしこにいる人間たち。結局私たち人間は、人間のことを全て把握出来ていない。科学と同じ、医療も然り。進化の前になす術なし。更に皮肉よね」
「博士はどうして人体に対する研究をしているのか、それはわからない。道徳を無視した行動を止めることが出来なかったことに対する罪滅ぼしなのか、はたまた生命倫理を犯した人間たちへの報復か」
リョウヘイ様は一息置かれた。
「正直、博士はそんなに殊勝で信心深いとは思えない。確かに優しくて、大きくて、俺たちにとってはたった一人の親だ。だけど……」
「だけど、と言いますと?」
リョウヘイ様からバトンを引き継いだアリマ様は仰られた。
「博士はいつも、私たちを見ている様で見ていない。博士の瞳に映るのは私たちでも、ましてやエイジやナツキ、アオイにリンタ、スバルでもない」
「博士は一体何を見ていると言うのでしょう?」
「それがわかれば苦労はしないさ」
「まあ、エイジとナツキは何かを知っているみたいな感じだけどね」
私は、ナツキ様とエイジ様、それぞれの言葉を思い出した。
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