卵と殻とAIロボット

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「そう。だって生きているのは当たり前だから。気付いたら生きていたんだから。死ぬってことは遠い、それこそ対岸の火事、という感覚だったんだ」 「対岸の火事、ですか」 「生きている証が、生きた証が欲しいんだ。手に入らないと理解出来ても、心は止まらないんだよ。欲しくてたまらないんだ」 「リョウヘイ様」 「間違いだらけの生き方かもしれない。それでも、俺は、俺が正しいと思う生き方をしたい」  リョウヘイ様は、アリマには真似して欲しくないけどな、と付け加えられた。 「卵を割って見たら、殻しか残ってないなんて寂し過ぎるだろう?」  リョウヘイ様は立ち上がり、部屋へ戻ると仰った。リョウヘイ様は去り際、私に仰った。 「俺さ、兄貴らしい言葉ってかけてやれなくてさ」  力なく笑っておられるリョウヘイ様。私の学習野回路が震えた。 「グレイ、アリマのことを頼む」  リョウヘイ様は振り返ることもなく去って行かれた。 「リョウヘイ様……?」  私は人間ではないから、気付くことが出来なかったのだろうか。リョウヘイ様の言葉の真意を、どうして気付くことが出来なかったのか。  この談話から数日後、リンタ様が通う大学の附属病院に、リョウヘイ様とその恋人であろう女性が救急搬送されたが、時すでに遅く。     
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