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「だな」
溜息をついたイシュクイナは、正面ではなく隣りに座る。
「イシュナ、甲斐性無しで悪かった」
「いいわよ、今更だし。私の旦那は奥手さんなんだもの」
「悪かったって。俺も……色々考えてたんだよ」
頭をかいたダンに、イシュクイナはクスクス笑う。その後で、ちょっと真面目な顔をした。
「私は夜の経験なんてないし、正直そっちはとても疎いわ。アンタを満足させられない、至らない妻だけど」
「違う! そういう事じゃないんだよ!」
急いで彼女の言葉を否定したダンは、更に頭をガシガシかいた。女性の彼女に、なんて事を言わせてしまったんだ。
「悪かった。そういうので悩んでたんじゃないんだ。俺は……俺の不甲斐なさなんだよ。お前相手にすると、ビビっちまう自分がいる。俺みたいなのがこんな上等な嫁、抱いていいのかって」
本当に格好悪いが、それも今更だ。帰る道すがら、ちゃんと自分の事を話そうと思ってきたのだから。
「俺が生まれたのは、こっから離れた国境の田舎町の商人の家で、裕福とは言えなくても食うに困る事はなかった」
話し始めたダンに、イシュクイナは真剣な顔で聞いている。少なくとも、こんな面白くもない身の上話を聞いてくれるらしい。
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