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単純に、通りかかっただけだった。ただ自分の国の軍人が力のない教会を襲っているのを見て、無性に子供時代の悔しさや憤りを思いだしたのだ。
その頃ダンは『ダンクラート』という名前を捨てた幽霊で、もし自国の奴に知られても白を切るつもりでいた。当然、逃す気もなかったが。
教会を守ったついでに村からも奴等を撤退させて、やれやれという所にイシュクイナ率いる近衛騎士団と女官騎士団がきてくれた。
正直、助かった。ダンは助ける事は出来ても、その後のケアはできない。知識も力もない。だから「後はお前等で頑張れ」としか言いようがなかったのだ。
「あの夜は、沢山話したわね」
「そうだな。俺は話せない事が多かったが」
「今になってみれば、当然よね」
苦笑したイシュクイナの視線が柔らかい。あの夜、下らない事から己の信念まで互いに話して、こいつとは近い感覚があると思った。いい友人になれると思った。
だからこそ、囚われたと聞いて心配もしたし、再会の時には安堵もあった。
ただ、恋情というものを置き去りにしたまま夫婦になってしまったのだ。
「俺はあの時、お前とは酒を飲み交わしながら朝まで話ができる、そんな友人めいたものを感じていた」
「奇遇ね、私もよ」
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