悲しみの先へ(レーティス)

2/13
438人が本棚に入れています
本棚に追加
/52ページ
 暖炉の前のラグにオーギュストを座らせたレーティスは髪を拭き終えると、温かなお茶を淹れて彼の前に置く。そして自分も隣りに腰を下ろした。 「心配性だな」  そう、笑って言ったオーギュストを少し睨みつつお茶を飲み込む。隣では同じくお茶を飲む彼がいる。とても静かな空間に、薪の爆ぜる音が僅かに響いた。 「町の様子は、どうでしたか?」 「変わりないよ。この時期は山を越えるのが難しい為、侵略などもほとんどないらしい。冷えてきたし、明日は新年だからな。兵士達も早々に返してしまったよ」 「確かに、この辺は特に雪が深く天気も変わりやすいですからね。山を越えるなんて、命知らずです」  自警団の時から冬だけは平和だった。あくまで『侵略』という事に関してだけだが。  冬は力の無い者を容赦なく連れて行ってしまう。凍えて死ぬ者、空腹で死ぬ者が多いのもこの時期だった。  それでも今年は十分な備えがある。中央から十分な食べ物の供給が行われ、今の所人々に行き渡っている。そのおかげで新年をちゃんと越せると、喜ぶ人が多かった。  残念なのは、新年のミサが行われない事。この地を守ってきた神父、チェルル達を保護していた人物が亡くなってからずっと、この地で新年のミサは行われていない。それでも後任を決めるのは、時間がかかっている。     
/52ページ

最初のコメントを投稿しよう!