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彼の場所を任せられる人として納得できるまでは、レーティスもなかなか頷けないのだ。
「ノーラントも雪が深かったな。この景色はとてもなじみ深い。あの地は冬が長いからな」
爆ぜる火を穏やかに見つめながら、懐かしそうに言うオーギュストの横顔を見て、レーティスはほんの僅か心が軋んだ。
最近、こんな事が多くなった。本当に小さな事に、彼の過去が見える。そしてそこには必ず、彼の主がいるのだ。
「ノーラントはもっと雪が深くて寒かったが……レーティス?」
「え?」
「どうした?」
不意に緑色の瞳がこちらを向いて、レーティスはドキリとした。
深い色の瞳にジッと見られるとドキリとする。特にやましい気持ちや隠したい気持ちがあるとそうなる。思わず目を逸らしてしまったレーティスの肩に、腕が回った。
「困らせてしまったか?」
「いえ、そんな事はありません」
「……最近、時々そんな目で俺を見る。何か、言いたい事を飲み込んでいないか?」
ふわりと香る柔らかな匂い、柔らかな瞳、触れる熱。これに気持ちは逆らえない。絶望の底にいたレーティスを拾い上げてくれたのは、この人なんだから。
「……妬けてしまいます」
「ん?」
「貴方の、主に」
言うべきではないし、言わずにいるつもりだった。でも、ずっと心の中に溜まっていたのも事実だ。
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