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「貴方が私の気持ちを気遣ってくれることは、大変に嬉しく思います。ですがもう、切なくてたまらないのです。貴方を愛しています。でも今のままでは貴方の主に嫉妬して、どんどん自己嫌悪に陥るのです。貴方と主の事は十分に承知していても、それでも……」
彼と主のヴィクトランの事は、何度も聞いた。そこに主と従者という以上の感情がないのも知っているし、当然体の関係もないと知っている。それでも比重が違っている気がしてたまらない。そんな事、当然なのに。この人がヴィクトランを支え続けたのは十数年。自分と一緒にいるのは、まだ数ヶ月なのだから。
真っ直ぐ、真剣な目がレーティスを見ている。困っているとか、誤魔化す感じではない。真剣に受け止めようとしてくれている目だ。
「悩ませてしまったな」
「悩みました、ずっと」
「悪かった」
「……貴方の優しさだと、分かっています。セシリアとの事を、考えてくれていたのでしょ?」
「あぁ。彼女をあのように亡くして数ヶ月しか経っていないし、この地に来てからも一ヶ月程度だ。忙しいだろうし、心の整理がちゃんとついてからと思っていた」
「どのくらいだと?」
「彼女の喪が明けるまではと」
「喪が明ける!!」
ってことは、このまま行けばこの人は一年、まったく手を出さずキス程度で済まそうと考えていたということか!
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