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キフラスがこの地の責任者として着ているのは、不甲斐ない兄の為だ。
あの兄は色町ではなかなかにモテたが、いざ嫁となると手をこまねいている。それに、義姉は悩みを抱えているようだった。
そんな姿を見ているだけに、今二人を離して長期の出張となれば間が冷え込みかねない。もしくはイシュクイナが乗り込んできかねない。これを見越して、軍部でも上層に着いたキフラスが赴任したのだ。
現在の肩書きは、軍事副長の一人。他国に争いの種を蒔いていた自分が、こんな不相応な地位についている。
これを賜ったとき、キフラスは「受け取れない」とアルブレヒトに伝えた。どんな理由があっても他国の侵略に加担した事実がある以上、そんな大役を受ける事はできない。情状酌量と、既に十分な反省、償いとなる行いをしていると言われても到底納得はできない。
だがあの方は頑として聞き入れず、この地位をキフラスに与えた。そして「この国と帝国のために尽力することが、贖罪です」と伝えた。
贖罪。その言葉で受け入れた。許される事はないだろうし、殺した命はどうしたって戻らない。だから生きている間、二国の為にこの身を尽くす事を決めた。
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