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これで少し行動を共にしている姿を見せれば、下手に手を出す者も減るだろう。彼女にとっては不本意かもしれないが、ここにいる間だけでも恋仲と見せた方が安全かもしれない。こればっかりは、彼女の同意無しにはやれないが。
「出来ればここにいる間だけでも、俺と恋仲のフリをしてくれると君の身の安全になるのだが」
「恋仲!!」
「年頃の君にとっては不本意なことだから、無理にとは……」
「あっ、なりたいです! あの、ちが! えっと……」
今度こそ真っ赤になったビアンカは湯気が出そうだ。首を傾げたキフラスに、彼女は顔を上げて頭を下げた。
「お気遣い、有り難うございます。あの、お手数でなければよろしくお願いします!」
「? こちらが言いだした事だ、気に病む事はない。君こそ迷惑でなければ」
「迷惑なんてそんな! むしろ、嬉しいです」
ほんのりと顔を赤くする彼女に首を傾げつつ、互いのお茶が無くなったのを切っ掛けにキフラスは立ち上がって手を差し伸べた。
「随分遅くなってしまった。送っていこう」
こうしていると、あの別荘地での事を思い出す。ケータリングを届けに来た彼女を店まで送っていくのは、いつもキフラスだった。
素直に手を取った彼女と二人、連れだって砦を出て人がまだ賑わう中を歩いていく。数人がこちらを見ているが、隣を行く彼女はあまり気にならないようだ。
「なんだか、別荘地での事を思い出します。あの時もよくこうして送ってもらいました」
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