悲しみの先へ(レーティス)

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悲しみの先へ(レーティス)

 ファランの町はジェームダルの中でも北に位置している。新年を翌日に控えた十二月ともなれば、一面は銀世界だ。 「レーティス、今戻った」  懐かしい実家の執務室で書類に目を通していたレーティスはその声に顔を上げ、柔らかく微笑んだ。朝から町に出て異常が無いかを見回ってくれていたオーギュストが戻ってきたからだ。  朝から降っている雪に髪を濡らした彼の側へと近づいていくレーティスは、手にタオルを持って彼の髪につく滴を丁寧に吸い取っていく。その間、オーギュストは少しくすぐったそうな顔をした。 「そんなに丁寧にしなくても」 「ダメです。風邪でも引いたらこんな辺境では事ですよ」  以前よりは圧倒的に町の状態は良くなった。アルブレヒトが軍をこの町に逗留させ、その軍の指揮をオーギュストに頼んだ。元々多くの部下を率いていた経験もあり、若手の兵士の鍛錬や、町の警備もしっかりしてくれる。  少し年のいった人達は「自警団が戻ってきたねぇ」と、安心したような顔で言った。  それでも圧倒的に足りていない職業もある。半壊状態の町を新たに立て直す為に大工は大忙しだった。  そして医者と薬師が確実に不足しているのだ。     
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