引越し蕎麦を渡すまで

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 なるほどね。  そういうことだったのか。  そして、朝早かったり、夜遅かったりしたのは、仕事がシフト制で、早番や遅番があるため、不規則だったからなんだと。もちろん土日祝も関係ない。  どうりですれ違ってばかりいたわけだ。  すべての謎が解けて、俺はほっと胸をなで下ろす。  ってか、事実がわかると、なんだか拍子抜け。 「ちょっと遅くなっちゃいましたけど、これ引越し蕎麦です」 「わぁ、わざわざありがとう」 「いえいえ」  俺は、ようやく渡すことができた引越し蕎麦を手に、苦笑い。  これで俺には墓場まで持っていかなきゃいけない秘密が出来てしまった。  いくら知らなかったとはいえ、とてつもなく変な想像をしてしまったことは、一生黙っていなくてはいけないだろう。  そんなことを心に誓いながら、俺はその隣人に向かって、俺にできる最上級の笑顔を向けた。                                      終わり
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