引越し蕎麦を渡すまで

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「もしかして、この間、隣に越してきた人? 全然会えなかったから、どんな人なのかなあと思ってたんだけど。君かあ。わざわざ挨拶に来てくれたの?」  さらさらと飛び出してくる声も言葉も、びっくりするくらい耳に心地よくて。  これはもう、確かめる必要もないくらい、きっぱりしっかりすっかり、さっきまでの悪い想像は、全部俺の勘違いだ。  俺は、あまりの申し訳なさに、深々と頭を下げてしまった。  ほんっと、すみませんでした。    それから改めましての自己紹介。  隣の人は、俺より二歳年上の大学生だった。  あおむしの歌は、てあそびうたで、歌っていたのは、バイトのためだということだった。てあそびうたを歌うバイトって、なんなんだろうと、不思議に思って聞いたところ、なんと隣人さんは、図書館司書だった。  司書なんて聞くと、すっげえ物静かな仕事みたいに思うんだけど、どうやらそんなことはないらしい。  特に、児童書を担当する場合は、毎週のように絵本の読み聞かせなんかのイベントがあるから、どちらかというと保育士みたいなんだと、隣人さんは笑顔で教えてくれた。
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