引越し蕎麦を渡すまで

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 桜が咲き誇る春爛漫のうららかな日。  俺は、当座の身の回りの品と、引越し蕎麦を手に持って、築四年のこのアパートにやってきた。  はじめての一人暮らし。  二階の角部屋。  俺一人だけの城。  そこはまるで、ガキの頃憧れた秘密基地のようだ。  ただし、秘密基地との違いは、壁一枚隔てた向こう側にも、誰かが住んでいるんだってこと。  布団や衣服や食器など、宅配便で届いた荷物を仕分けしながら、俺はその壁の向こう、つまり隣の部屋を横目でそっと窺った。  ちょっとだけ気が重い。  どうしてかって?  だってさ。荷物を片付け終わったら、行かなきゃいけないんだから。  壁の向こう側に住んでいる誰かさんに、引越し蕎麦を渡しにさ。
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