引越し蕎麦を渡すまで

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 そう思ってたんだけど、翌日も翌々日も、隣は夜遅くまで帰ってくる気配がなかった。  ようやく小さくガチャって鍵を開ける音が聞こえてきたのは、九時半を過ぎた頃。  これがもし友達だったら、いや、友達じゃなくても、せめて数回でも会ったことのある知り合い程度だったら「やっと帰ってきた~」みたいな感じで、お邪魔できるだろう。  でも、俺たちは初対面もまだの間柄。  間も柄もない。ただの他人だ。  いきなり押しかけるには少々微妙な時間帯。  せめてあと一時間早ければ大丈夫だろうけどさあ。それに帰宅してすぐに行ったりしたら、お前、帰宅するのずっと待ち伏せでもしてたのか。ストーカーかよって思われる可能性もあるじゃないか。  それって、男だったらまだしも、もし女性だったら、いろんな意味でアウトだろう。  というわけで、今日も行くのは止めるしかない。  俺は早々にそう判断して、一旦は手に持った蕎麦を冷蔵庫に仕舞った。  チャンスは明日の日曜日だ。  日曜日ってことは、隣が社会人だったとしても会社はないだろうし、学生だったとしても休みのはず。さすがに朝早いと迷惑だろうから、昼前くらいに行けばいいだろう。  そんなことを考えた。  なのに。    翌日、隣でバタバタと騒がしい音がして、ドアが開く音が聞こえたのは、朝の七時だった。  寝ぼけ眼のまま、その音を聞きながら、俺は心の中で舌打ちする。  なんだよ。  日曜の朝くらい、ゆっくりしてろよ。隣人さん。  これじゃ、今日も無理かあ。  そんな感じで、いつのまにか、三日が過ぎ、四日が過ぎていった。
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