引越し蕎麦を渡すまで

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 さすがにちょっと焦りだす。  どうしよう。完全にお互いの生活時間帯がずれてる。  午前中に行こうと思っても、隣は朝早く出かけてしまう。  今日こそは夕方帰って来いと願っても、隣の帰宅は九時を過ぎる。  やっぱり世の中にはタイミングってものがあって、不思議なことに一回すれ違うと、なかなか軌道修正がされないのかもしれない。  だからこれは俺の所為じゃない。  俺の所為じゃない、と言いたいんだけど。 「それでもこれはさすがにどう考えても明日が限界なんだろうなあ……」  パッケージに書かれた賞味期限の日付とにらめっこしながら、俺は悶々と考え込んだ。  なんだかだんだんわざと避けられてるような気がしてきたぞ。    そして、とうとう蕎麦の賞味期限が明日に迫ってしまった日。  さすがにもう、どうにかして渡すしかない。  いくらなんでも賞味期限切れの蕎麦を渡して「遅くなってすいませ~ん」なんて真顔で言う隣人なんて俺は嫌だ。近所付き合い、最初から放棄することになりかねん。  そんな時だった。  夜七時の時点で、隣から物音が聞こえてきたんだ。  おおお!  これって在宅してるってことだよね。  やったー。  俺はその場で万歳三唱した。  これでようやく引越し蕎麦を渡せる。今を逃して、いつ渡すんだ。  と、俺は勇んで部屋を出ようとした。
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