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「じゃあ指輪をはめてベールをめくる流れで撮っていくから──」
「……だって。聞いてた?」
カメラマンの声がした後に、マリオが邪魔するように覗き込んで視界を塞いでいた。
「き、聞いてた…っ…」
気持ち焦って答えたことを笑って誤魔化した。
正直、聞いて居なかったと伝えるべきか?
言わなくてもバレてるみたいなんだけど……
そう思いながらカメラを向き直り、またもやちらりと目だけを後ろに向ける。
「……っ…」
なんだか妙に接近し過ぎだって思うのはあたしの思い違いなんだろうか──
後方で休む夏希ちゃんと舞花が仲良く話し込む姿がやたらと目につく。。。
チラチラと目線だけを動かすそんな上の空なあたしの顔を、マリオがいきなりグイッと指先で仰向けた。
「目の前の夫となる僕に集中して欲しいな──」
「…っ…す、…すみませんっ」
高い鼻先が付くほどの距離でそう叱られた。
少し厳しい表情を見せたマリオに気持ちが引き締まる。
仕事だっ仕事!──
そう自分に言い聞かせて口を結ぶあたしを今度はマリオが笑った。
「幸せな花嫁の役だから……その追い込んだ表情はないと思う」
「……っ…」
そりゃそうだ。
ただ服を着て撮せば良いって訳じゃない──
今までみたいに脚だけを撮すとか、後ろ姿だけ撮ってはい終わり。ってわけでは済まないから……
そう思いながらも固まった表情を崩せないあたしを見てマリオがカメラマンに待ったを掛けていた。
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