第5章

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「一葉!! 一緒にこれ食べないか!!!?」 ___いいです。戻っていいですか。 「なんで目逸らすんだよ!!! こっち見ろよ!!!」 ___絶っ対嫌です。あと戻っていいですか。 本来なら友だちとゆっくり昼食を楽しんでいたはずのこの時間帯。 なぜか俺は、生徒会室にいた。 ……いや、〝なぜか〟なんて、とっくにわかってる。 (こいつ)のせいだ___!!!! そう、このチンパン野郎は、授業終了早々俺の手を掴み、無理やりここに引きずり込んだのだ。 そこまでならまだいい。…いや、全然良くないけど、いちばん大変な問題はここからだ。 まず一つ目は、晃がいるって事。……この際はっきり言おう。面倒くさい。 今だって、適当にあしらってもしつこく絡んでくる。 そろそろ表情筋が崩れるからほんとやめてほしい。 ___そして、もう一つの災難。それは…… 殺気漲る副会長をチラリと見遣り、短く悲鳴を上げる。 …晃ラブな副会長様にとって、晃にやたらと絡まれる俺は〝邪魔〟な存在だ。 そいつが生徒会室にいるとなれば、怒るのも当然だろう。連れてきたのが晃っていうのも、気に食わないはずだ。 ………だが、しかし。 俺は断じて悪くないっ!! 悪いのは脳筋なイケメンチンパンだ。 すなわち晃だ。 それなのに。 視界の端で副会長を捉えて、今日何度めかのため息を落とす。 ピクピクと痙攣が止まない眉に、明らかに怒気を含んだ目。 必死に口の端を吊り上げていることから察するに、本人は笑顔を浮かべているつもりなんだろう。 そこは流石腹黒といったところだが、目に見えてわかる。かなりキツそうだ。 ……ことに、俺の表情も、さっきから晃に向ける引きつった笑顔のせいで半ば崩れかけている。 お互い表情筋の限界が来る前に、なんとかここから抜け出さなければ。 一度決意した勢いに任せ、ぐっと顔を上げる。 「あ、あの………」 副会長の片眉がピクリと動く。 だが俺は構わず続けた。ここにずっといるよりはマシだ。 「俺、戻ります……」 同時に、すっと立ち上がる。そのまま走り出そうと構えた俺の手を、晃が掴んだ。 「どこ行くんだよ!!!!」 ___お前が勝手に連れてきたんだろうが。 てめぇのせいで、俺と副会長の表情筋が死ぬんだよ。気付けバカ。アホ。イケメン。 ……という言葉が出掛かるのをぐっと堪え、懸命に笑顔をつくる。 「……そろそろ俺、教室に戻りたいな。また今度話そう、ね?」 一回もちゃんとした会話したことないけどな。 だが、晃はそれで納得したようだった。なぜか頬を赤らめたまま力を緩めてくれた。 手が離れていく瞬間を見届け、そそくさと扉に向かう。 自分の身長の倍はある高い木製の扉の前に立った俺は、これまた高めの取っ手に手を伸ばした。…が、その時。 ______ガチャ 「、うわぁっ!?」 突然目の前の扉が開き、不意を突かれた俺は後ろへひっくり返ってしまった。 あまりに突然のことに言葉を失っていると、開いた扉からどこか見覚えのある人物が入ってきた。 一瞬期待したのは、二人の友人の顔。 しかしそんな期待も虚しく、入ってきたのは別の人物だった。……しかも、一人ではなかった。 「大丈夫〜?」 尻餅をついている俺に手を差し伸べたのは、食堂で見かけたチャラ男。 ……そして、もう一人は。 「! お前は……」 俺のファーストキスを奪った相手でした。
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