第3章

2/8
2895人が本棚に入れています
本棚に追加
/62ページ
二人についていくと、やがて大きな扉の前に突き当たった。扉には〝食堂〟と示されたプレートが下がっている。 空腹だった俺は、いそいそと扉の取っ手に手をかけた。そのまま勢いよく開け放とうとしたが、それは 聖の手によって制されてしまった。 「……?入らないのか?」 俺の質問には答えず、聖は取っ手に手をかけたまま、七瀬に目配せをする。 七瀬はなにかを察したように頷くと、俺に耳栓を差し出してきた。 「これ。つけた方がいいよ」 理由を聞こうとしたが、すぐに察し、差し出された耳栓を無言で受け取った。 そのまま耳に突っ込む。 「…いくよ」 俺と七瀬が頷くのを確認してから、聖は食堂の扉を開け放った。 「キャアアアアアアアアアアアアア」 瞬間、耳を劈くような凄まじい声が 耳栓越しに響く。 さっきも思ったが、 この声は男子高校生の、いや、“人類の”限界を軽く超えていると思う。 …だが、そんな叫び声も、どよどよとした騒めきに変わっていく。原因は言わずもがな、俺である。…もう一度言おう、平凡(おれ)である。 「姫宮様、市ヶ谷様、今日もステキすぎる…っ! ……てか何あの眼鏡。誰」 「あっ僕知ってる! 確かあいつ外部生だよ、Sクラスの」 「Sクラスッ……!?あんな平凡がっ…!?」 あまりに好き勝手ないいように、俺は眉根を寄せる。 さすがの聖も、困ったような笑みを浮かべていた。 そして、七瀬はといえば、…………………この小説が〝ホラー〟というジャンルに化するのを防ぐために、敢えて言わないでおこう。 あちこちで飛び交う不満の声に耳を塞ぎながら、食堂の端のテーブルに移動する。 席に着くと、俺は改めて食堂全体を見渡してみた。 食堂は、とにかく広かった。大理石のタイルに、二階(うえ)へと続く立派な階段。 厨房の中では、一流であろうシェフ達が忙しそうに料理を作っている。 その一つ一つの動作をしばらくぼーっと眺めていると、右肩をトントンと軽く叩かれた。 見ると、聖がタブレットらしきものを片手に持っている。「何食べる?」と聞かれて、思わずそのタブレットを二度見した。 …どうやら、注文はこのタブレットでやるらしい。 渡されたタブレットを覗き込むと、カタカナで書かれた高そうな料理名がつらつらと並んでいる。 __『パトゥルジャン・イマム・バユルドゥ』って知ってる?知らないよね。 「カレー、は…ないよな……」 力なく呟く俺に、七瀬が答える。 「あるよ。 インド風のカレーらしいから多分すっごく辛いと思うけど」 インド風!? あれか、インド人が直接作っているやつか。くそ、晋一さんめ。インド人だって忙しいんだぞ! 「カレーで」 謎のインド愛?をよそに、俺は即答した。聖が、クスリと笑いタッチパネルを操作してくれる。 数分立って、料理がテーブルに運ばれてきた。 ちょっ、早すぎじゃないか?インド人無事か? まだ見ぬインド人に同情しながら、ウエイターに礼を言う。 すると、ウエイターは一瞬驚いたように目を丸くし、嬉しそうに笑った。……ウエイターまでイケメンとか、この学園狂ってんのか。…もしかして、インド人までイケメンだったりして。 「「………」」 インド人イケメン像を想像し、一人で吹き出す俺を、何故か二人とも真顔で見つめてくる。 「なに?」 「……一葉、ってさ。 なんか危ないって言われない?」 聖のおかしな質問に、ポカンと口を開ける。 それとほぼ同時に、背後でバンッと食堂の扉を開ける音がした。
/62ページ

最初のコメントを投稿しよう!