Rental Wife

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「あの、玲さんが来るタイミングは教えてもらえないのでしょうか? 何せ、平日の日中は会社にいるので」 「それならば、橋本玲さん用の鍵を一本お借りできますか? それを彼女に渡しておきます」 「わかりました」  僕はそう答えてから、タンスの中にしまっておいたスペアの鍵を取り出して坂井に渡した。坂井は鍵を大切そうに鞄の中にしまうと、丁寧に挨拶をして帰っていった。  翌日、僕は仕事の昼休みを利用して銀行に行き、指定された預金口座に五百万円を振り込んだ。手続を取りながら、もし詐欺だったらどうしようという不安が微かでも(よぎ)ぎらなかったと言えば嘘になる。それでも、玲に会いたい、そして期間限定であっても彼女との結婚生活を送りたいという気持ちが、僕の背中を強く押した。  午後五時に定時で仕事を終えた僕は──いつもならばどこかで夕食を摂ってから家に帰るのだが──真っ直ぐに家に戻る。坂井の話が本当ならば、もう玲が家に来ているかもしれない。そう思うと、家に向かう足取りが自然と速まる。電車とバスを乗り継いで、家に辿り着いたのは、午後六時を少し回ったところだった。     
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