8人が本棚に入れています
本棚に追加
ダイニングで座って待っている間にも、心臓の高鳴りはおさまらない。ときどき、キッチンの方に視線を向けて、玲の様子を窺う。キッチンに立って料理する妻の姿を見ることなんて一生できないと思っていたから、どうしても興奮がおさまらない。
五分ほどすると、玲ができたての料理を持ってやって来た。メインはサバの塩焼きで、小鉢は菜の花のお浸し、それに味噌汁まで作ってくれている。これまで何年間も外食かコンビニ弁当で夕食を済ませてきたのに、今は目の前に手作りの、しかも作りたての夕食が並んでいる。
「いただきます」
僕は手を合わせてから、さっそく夕食にとりかかる。あまりの美味しさと、理想的な結婚生活に、僕は思わず涙が零れそうになる。
「あなた、どうしたんですか?」
玲が優しく声をかけてくれる。
「いや、何だか嬉しくて。玲さん、ありがとうございます」
「よろこんでもらえて何よりよ。でも、私たち結婚してるのよ。そんなによそよそしくしないで」
「え、ああ、うん」
僕は小さく頷く。だけど、いきなりよそよそしくしないでと言われても、初対面の女性に対してどのように接すればいいのかなんてわかるはずもない。僕はとりあえず、呼び方を“玲さん”から“玲”に変え、できるだけ敬語を使わないようにした。
最初のコメントを投稿しよう!