金曜日のロッカー

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「実は、少し手伝って欲しいことがあるのですが」  中野礼子は目をぱちぱちと瞬かせた。大きなカーブに差し掛かり、電車が揺れる。手伝い?一体何のことだろう。疑問に感じながらも、礼子は内心わくわくするのが分かった。初めて飲む炭酸飲料に口をつける瞬間のような、しゅわしゅわした刺激を予感させる甘い響きが礼子を支配する。 「手伝って欲しいこと?」 「いえ、難しいことでは全くありません」  礼子はごくりと生唾を呑んだ。彼女がこの男と出会ったのは、つい三日前、月曜日のことで、場所は今日と同じ車内の隅だった。
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