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「それで――どうして僕の所に来たのかな?」
俺の前に座る眼鏡をかけた男性は、そう言って微笑んだ。
柔和な表情ではあるが、目つきは鋭く、撫でつけられた髪は、殆どが白くなっている。
俺達が向かい合っているのは、殺風景な部屋だった。簡素な椅子と机であり、コーヒーどころかお茶も出さないところを考えるに、彼は俺を歓迎していないのだろう。
「実は、教授に聞いてほしい物があるのです」
俺は、はっきりとそう言った。声は震えていないし、上ずってもいないと思う。
大丈夫だ。まだ落ち着いている。
大丈夫だ……。
「聞いてほしい物、か。僕はこれから授業があるのだけどね?」
「教授の授業まで、四十分はあるでしょう? 僕のこれは――」
そう言って、俺はボイスレコーダーを机に置いた。
「大体三十分くらいです」
教授は息を短く吐くと、椅子に深く腰掛けた。
「しかし、私が聞かなければならない理由はないと思うのだが。そうだろう?」
「教授は趣味で、都市伝説を蒐集していると聞きました」
む、と教授が唸った。カーテンが無い部屋なので、雲がよぎり始めたのか、部屋が徐々に暗くなっていく。
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