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最後に目にしたのは跳ね上がる泥と曇りきった空だった。
どうやら空からの爆弾が近くに落ちたのだろう。爆風を受けて体が勢いよく吹き飛ばされたみたいだ。その時に砂利が目の中に入って激痛が目の中を襲う。
歯を食いしばり痛みに耐える。大きな声で呻いてしまえば敵に場所をばらしてしまう。それに助けを求めたとしてたまたま近くに仲間がいたとしても助ける余裕がない、むしろ足手まとい一直線だ。
それにさっきの爆発でどうやら鼓膜もやられたみたいだ。さっきからキーンという音だけが聞こえて他はものすごく遠くから爆発する音や発砲するような音が聞こえる気がする。これでは敵が来ても身を隠すことができない。
私は上体を起こし立ち上がって数歩下がったところにあるはずの塹壕を探そうと思った。そうすれば中に隠れている誰かに看てもらえるしうまくいけば戦線に復帰できるかもしれない。けれど私に起きている出来事はそこまで都合の良いものではなかった。私が立ち上がろうとした時にそれは起きた。
ぐにゅり
なんの感覚だ?と思い右足に触るいつも触っているまっすぐに伸びた脛の骨が見事に折れていた。正確に言うならば膝と足首の丁度真ん中のところから先が垂直に曲がって―――
「あっ……ああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!」
自分がいつの間にか叫んでいるのに気付いた。音ではなく、口の動きでそれが分かった。それに付随して痛みがゆっくりと弱火で焼いていくようにじわじわとやって来た。
痛みに脳が支配されろくに頭が回らない。判っているのは右足骨折と両目の損傷、それに鼓膜が破れていることの三つ。それ以外全く考えられなかった。
先程からパラパラと顔に泥がかかる。近くで爆弾が未だに投下されている可能性がある。私は一か八か後ろに向かってゴロゴロ転がった。子どもの頃に畳の上でよくこうやって転がっていたのを思い出した同時に体が宙に浮く感じがした。そしてそれが塹壕の中に落ちることだと理解して安心した。塹壕に落ちて体の至るところが痛いが死ぬよりはマシだ。
仰向けになって見えない空を仰ぐ。これではもう戦うこともままならないだろう。完全に重体だ、もう動かない方がいい。硝煙と血と泥の臭いが混じり生き残った鼻に不快感を与える。このまま死ぬのか、そう思った矢先何処かから懐かしい香りが漂ってきた。
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