2人が本棚に入れています
本棚に追加
「やはり、貴方に支店長は無理だったと言うことですな」
壮年の男性が低い声で告げると、支店長の顔が紅潮する。
「そんなことは……。それに、まだ、二年じゃありませんか」
「まだ、二年? とか言いましたか?」
壮年の男性が凄む。支店長の暴力的な威圧感とは異なっている。知的さによる論理的な言葉の暴力が感じられる。
「スイマセン。私の失言です。どうか、もう一度チャンスを」
「解っているんですかね。猫が経営しても儲かると言われたラジエル支社の業績をここまで悪化させた。それって並大抵のことじゃないんですよね」
「エリヤ、何をしている」
ザマアミロと思っていたところに飛んできた罵声と灰皿。躱すことなどできない。左手で顔を護るだけで精一杯。勢いよくぶつかってきた灰皿の痛みが全身に広がる。
「監査官様に土下座をして謝罪をしろ。私が無能だったせいで、赤字になりました。と」
支店長の意味不明な論理が頭に入ってこない。痛みで思考が奪われていく。
「とりあえず、誠意ぐらい見せろ。土下座すら出来ないのならば、腕でも落として謝罪
支店長が発狂する。もはや、まともな人間の表情ではない。机の中から短剣を取り出して襲いかかろうとする。
まずい。今日は、瞬間移動の巻物が無い。左腕がジンジンと痛みを告げる中、逃げることはできそうもない。机を飛び越えて一突きされれば、体格差もあり抗うことは無理だ。
背後の扉に向かって、ジリジリと下がる。まずは、部屋から逃れることが最優先だ。多少の時間を開けて冷静になれば、暴力沙汰で物事を解決しようとはしないはずだ。
俺は逃げるタイミングを伺う。扉まで数歩。十も数えること無く逃げ出せるはず。だが、背を向けた瞬間に短剣を投げつけられるかもしれない。
荒い呼吸を繰り返しながら、支店長の視線を受け止める。獣系の魔物と相対した時、視線を逸した瞬間に襲われる。メイクラフトの言葉を思い出していると、背後で扉が開く音がした。
最初のコメントを投稿しよう!