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背後が気になった。ゴブリン男どもならば、ゲームセット。ここで俺の人生は終了だ。とは言え、のんびりと背後を確認するわけにも行かない。隙きを見せれば、次の瞬間にダガーが脳天に突き刺さる可能性もある。
「お前、何しに来たんだっ、邪魔だ。帰れッ!」
支店長が来訪者に怒声を浴びせる。よって、ゴブリン男らではない。とわかったが、危機が過ぎ去ったわけではない。
「さっさと出ていかないと、力ずくで追い出すぞ!!」
支店長が俺の背後にいるであろう来訪者に怒鳴る。と、壮年の男性が「止めないか。座れ」と、支店長を牽制する。
「監査官殿、今は、外注なんか相手にしている暇はないんです。こいつを追い出して、監査の続きをしませんと」
「もう、結論は出ています。君は帝都に戻り、基本業務からやり直してもらいます」
「待ってください。私がいなくて、ラジエル支社はどうなるんです」
「十分やっていけますよ。他の誰でも」
壮年の男性の言葉に、支店長は顔中に血管を浮かび上がらせる。
「エリヤ、そこのジジイ。お前ら、責任を取れッ!」
「何をですか?」
支店長の罵声に反論する声は横から聞こえてきた。気づけば横に並んで立っていたその人物、それはカーペンタ老人だった。
「何しに来たんですか?」
とは訊けなかった。ただ、唖然として、理解が出来なくて、何が起こっているのか、表面的なものしか見ることが出来ていなかった。
「何、じゃないんだよ。お前らが、赤字だから、俺様が迷惑をしてるってんだ」
「ほう、私らの責任で赤字になった。と、君は言うのか」
カーペンタ老人は冷静に言い返す。止めろ。危険だ。口を塞いで部屋から無理やり押し出すべきか。と、俺が考えを巡らそうとした。その時、支店長は机を蹴倒して道を作る。
「そうだ。お前らが、この支社にいる俺以外が、責任転嫁の」
カーペンタ老人は、壮年の男性に視線を送る。すると、壮年の男性は、コホンと咳き込んでから、
「まだ気づかないのか。この方は、ノーデンス商会専務取締役、チェイサー・ノーデンス男爵だぞ」
と、支店長に向かって怒鳴りつける。
「せ、専務取締役?」
一瞬にして支店長の顔から赤みが失せていく。
「そうだ。本来ならば、本件ごときに顔を出されるほど時間の余裕がある方ではない」
「まぁまぁ」
カーペンタ老人は、壮年の男性を宥める。
「久しぶりに、現場に入ってみて楽しかったぞ。立坑に潜んでいたのは面白かった。自社の話でなければ大いに笑えるところであったんだがな」
カーペンタ老人は、俺に向かってニヤリと微笑みを見せる。
「待ってください。今回の件は、色々と事情がありまして」
「君が無能以外の事情は見当たらなかったがな」
支店長は言い訳をしようとするが、カーペンタ老人は反論など許さない。
「伯父、伯父上のご意見をいただけないでしょうか?」
「伯父上? バークシー男爵は首になったよ。業者と癒着して賄賂を貰っていたのが発覚してな。いや、わかってたんだが、漸く証拠を抑えることが出来たんでな」
「く、首ですと?!」
支店長は項垂れている。かと思えば全身を震わせる。泣いているのだろうか。状況は理解出来ないが、同情できそうな話がされたような気がする。俺がため息をつくと、支店長の震えは徐々に大きくなり、笑い声に変わる。
「つまり、俺の後ろ盾がいなくなったってことか。だったら、都合が良い。伯父上のことを気にせずに、やるだけだ」
「何をやるというのですか」
壮年の男性が、支店長に言うが、支店長の視線は既に焦点が合っていない。
「皆殺しだ。お前ら、全員殺して、立坑に捨ててやる。そうすれば、証人はいない。俺もそのまま支店長だ!!」
整合性の取れていない論理を振りかざす。話にならない。議論であるならば。だが、今は議論をする時ではない。ダガーを持った支店長をどうすれば、止められるか。それが最優先されるのは明らかであった。
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