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どうにかこうにか覚えた道のり。
自分の住んでいる屋敷に対してそんな事を言うのは奇妙なのかもしれないけれど、本当に何度も復習してやっと頭に入ったのだ。
記憶を辿りながら間接照明だけが薄暗く灯る廊下を歩いて、何個目かの角を曲がった先。
「良かった、ちゃんと着いた。」
目的地だったキッチンに到着した私は、ホッと胸を撫で下ろした。
手探りで壁を伝いそこに明かりを点ければ、汚れや埃が一つとしてない見事に磨かれたシンクやコンロが露わになる。
いつもなら、ひー君しか入らないこの場所。
私が何度料理をしたいと言ってみても、彼は断固としてそれを許してはくれない。
「僕の作った料理が美しい日鞠の体内に入る事以外、虫唾が走るの。僕はね、日鞠の内臓までもを僕の物で染めたいんだ。」
優美な微笑で私が料理する事を拒んだ彼に、心から見惚れてしまった時点でこちらの敗北は決まってしまった。
でも、今夜だけは彼が作ってはいけないの。
私が絶対に作らないといけないの。
「美味しくできるかなぁ。」
ひー君が手入れしてくれているおかげで綺麗なままで保っている長い髪を束ねてリボンで結んだ私は、手を洗って早速冷蔵庫の扉を開いた。
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