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眠たい目を擦って、襲い掛かる睡魔にもう少し待ってと心の中でお願いする。
夜風に靡くレースカーテンがひらりふわりと舞って、風が収まると同時にレースの裾を躍らせるのを辞めてしまう。
そうしてベッドまで伸びていたカーテンの影が波のように引いたかと思えば、目前に端麗な貌が浮かび上がった。
静かに、一定のリズムを刻んで寝息を立てている彼の腕は、縛り付けるかの如く私の躯に絡みついている。
「綺麗…。」
こうして彼の寝顔を瞳に映すのは久しぶりだ。
ずっとずっと、生まれた時から一緒にいるのに、いつも彼より先に私が寝てしまうせいで、長い睫毛を伏せて無防備に安らぐ相手のこんな姿は滅多に見る事は叶わない。
鼓動が跳ねるのは、彼を起こしてしまわないかという懸念が要因ではなく、私の心がこの人に堕ちて囚われているという証だ。
息を殺して、相手の睡眠を妨害しないよう細心の注意を払って手を伸ばす。
嗚呼、いつから私はこんなに欲深な人間に成り果ててしまったのかな。
指先で陶器に勝るとも劣らない滑らかな彼の頬をなぞれば、強烈な優越感と幸福感が駆け巡った。
「私の…ひー君。」
ベッドの上で溶けた言葉。
それを漏らした私の唇は、緩やかに弧を描いていた。
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