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冷蔵庫の中は、食材が丁寧に陳列されていた。
どのお野菜や果実のにも日付の記載があるラベルが貼られている。
きっと彼が食材の腐敗を防ぐ為に徹底した管理をしているのだろう。
「えーっと、無塩バターと林檎と卵と…。」
一つ、また一つと手を伸ばして必要な材料を腕で抱える。
聖バレンタインの日。つまり私とひー君の誕生日に、私は彼に何もプレゼントをする事ができなかった。
その事実に落ち込んで嘆いていると、優しい彼は「日鞠は僕の傍にいてくれれば十分だよ」と言ってくれたけれど、やっぱりどうしても彼に何かを贈りたい気持ちが強かった。
だから私は、3月14日のホワイトデーにスイーツを彼に手作りしようと思い立ってここにいるのだ。
「ふぅ。良かった、ちゃんと全部材料揃ってる。」
一見すれば簡単に揃うはずのこの材料は、彼に露呈しないように集めた物だ。
スーパーに行けば全部手に入るけれど、生憎私はこの屋敷から出る事を許されてはいない。
そんな私に決まって彼は、欲しい物はないかと訊いてくれる。それに乗じて、私は必要な材料を一つずつ強請ってやっとの思いで全部を集めたのだ。
「こんなもの、何に使うの?」
怪訝な顔で首を捻る彼に対してのデタラメな回答も、もうすっかりネタが尽きてしまった。
壁に掛かっている時計はもう深夜の0時を過ぎている。
こうしている間にも、いつ彼が目を覚ますか分からない。
そんな緊張感を持ったまま、私は大慌てで調理に取り掛かった。
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