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もう朝だね、朝食の用意をしなくちゃあいけないや。
そう呟いた彼が「何が食べたい?」と私を甘やかす。
「そうだ。ひー君来て。」
「え?」
気怠さと疲労が残る身体を起こして、私は彼の手を引いてキッチンへと誘導する。
一体どうしたのと若干困惑を見せる彼は、難しい顔をして首を捻っている。
冷蔵庫を開けて、一生懸命ラッピングしたアップルパイを取り出した私は、そのままひー君に差し出した。
「ハッピーホワイトデー。」
「…これ…。」
「ふふっ、聖バレンタインの日、ひー君に貰ってばっかりだったから私もやっぱり何か贈りたくて…。内緒で作ったの、ひー君アップルパイ好きでしょ…っっ。」
「嬉しい。」
アップルパイを手にしたまま、私をぎゅっと抱き締めた彼は瞳をキラキラと輝かせてはしゃいでいる。
「食べて良い?」
「勿論。」
「でも勿体ないね。永遠に取って置きたいよ。」
「やだ。ひー君に今食べて欲しいの。」
食器棚からフォークとナイフを取った彼が、器用に一口台にアップルパイを切り取って口に含む。
見た目は成功だったけれど、果たして味はどうだろう。
緊張しながら彼を見つめる私に、相手が頬を緩めて見せた。
「とっても美味しい。」
「本当!?!?」
「うん。」
「んっ!?!?!?」
突然唇を噛まれたと思えば、次の瞬間にはシナモンの香りを含んだ咀嚼された林檎が彼の舌から私の口内へと流し込まれる。
甘くて蕩けそうなのは、きっとアップルパイの味じゃなくって。
彼のキスが原因だ。
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