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薄明かりの中で、ベンチプレスを終えると、私は汗を拭い、次のトレーニングに移った。
足元にバーベルを置き、両ひざを曲げないようにゆっくりと持ち上げていく。腰と臀部に負荷がかかり、筋肉がびくりびくりと痙攣する。拭ったばかりの汗がまた吹き出す。
「君を選んだのは、間違いじゃなかったか……と、時々思うんだ」
私の傍らに浮いていたチコは、そう言った。
私が選ばれた人間――選人になったのは、半年ほど前だった。
書斎で読書をしていると、妙な光が上から降り注いできた。見上げれば、青く輝く光を纏って、小さな縫いぐるみのような謎の生物が頭上に浮いている。
「僕はチコ! 光の国から来た妖精さ!」
読みながら飲んでいた酒がまわったのか、それともポオの毒気に当てられたか、と目を擦ってはみたが、チコと名乗る生物はふわふわと私の前まで降りてきた。
「話を聞いてもらえるかな?」
私には頷く以外に選択肢が無かったように思われる。
世界は悪に満ちている。
チコは簡潔にそう言いきった。
このままでは世界は地獄になる。
チコはそうも言った。
戦争か? と私は質問をした。
いや、それは結果さ、とチコ。
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