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高校生になったら、電車通学が始まる。
八手三四生(やつてみよお、性別男)はそれを楽しみに遠くの町の私立高校を受験したのだ。
登校時にあるはずの出会い。できれば異性、願わくば美少女、そんな期待に胸を膨らましながら、三四生は真新しい学生服に袖を通した。
彼が住んでいるのは、陸の孤島のような田舎町で、かろうじて私鉄沿線の末端にその名を刻まれていた。
通学時間の朝は電車が2本しか止まらない。
始業に間に合うためには7時半の電車に乗らざるを得なかった。
この電車に乗るには自宅の近くを通るバスに乗らないといけない。
バスは一本しか通らないので、おのずと駅に着く時間は7時20分に定まってしまう。
ただ、問題はそうした時間的な余裕がないことではなかった。
「まただ・・・」
願わくば美少女との出会い…そんなうまくいくはずはないと、心のどこかで分かっていた。
しかし…である。
この現実は悲しすぎる。
駅のホームには禿げた瓶底メガネの冴えないリーマン。
絵に描いたような田舎のおばあちゃん、遠くへパートに行くであろう主婦とうるさい幼児。それに毎朝絶対にホームの端で一眼レフを構えるオタクらしき若者…
は~あ。
ため息が止まらなかった。
おまけに三四生はお腹がゆるく、朝食を食べると大体1時間以内に大便を催すので、絶対に駅のトイレに入る必要があったのだ。そして、この時間が先述の禿げリーマンとものの見事にかぶってしまうのだ。
悲しいことに三四生は繊細だった。先に個室に入り、ため息をつきながら大をしようとしたところへ、リーマンが隣でブリブリと音をたてて大をする。すると、彼の便は引っ込み、腹の痛みだけが残り、もう排便できなくなってしまうのだ。
そのせいで三四生は便秘になってしまった。今では朝食をとるのも辛い。
「は~あ…」
ため息は止まらない。
汚れた便所、隣のリーマンの臭い大便、何の出会いもない通学電車・・・
こんなはずじゃなかった…もう、ダメだ。
三四生は無意識のうちに声を出していた。
すると
「少年!頑張れ!生きていたらいいこともあるさ!」
隣から呑気な大声が響いた。
瞬間、三四生は叫んだ。
「うるさい!」
するとどうだろう。
ブリブリブリ!
三四生はおよそ2週間ぶりに快便を体験したのだった。
スッキリ
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