美談と呼ぶには、それはあまりにも悲惨な

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 完全な幸福が存在しないように、完全な不幸というものも存在しないらしい。  私たちは、隣人に恵まれていた。名前はヴァレンティーヌ。若いが、歳はちょっと分からない。白い肌、長く艶やかな黒髪、熾火のような赤い瞳。  だが、彼女が美しかったのは、その外見のためではなかった。  屋根裏には並ぶように二つの部屋があって、左側に私たち兄妹が、右側にヴァレンティーヌが住んでいた。  初対面の時、彼女が言ったことをよく覚えている。 「エリザ、困ったことがあったら何でも私に言ってちょうだい。私があなたのお姉ちゃんになってあげるからね」  その言葉に偽りはなかった。ヴァレンティーヌは本当に親切だった。食べ物や衣類、ロウソク、時にはお金まで、彼女は私たち兄妹に分けてくれた。私も時には彼女にお返しをしたが、受けた恩恵とは比べるべくもない。  彼女は日中部屋にいて、陽が落ちる頃に外へ出ていくのが常だった。薄化粧をし、簡素だが体のラインを際立たせる魅力的なドレスを着て、雪の結晶をあしらった銀の髪飾りをつけて、音もなく階段を降りていく。  何を職業にしているか、小娘の私でも察しがついた。
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