美談と呼ぶには、それはあまりにも悲惨な

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 その日の晩、私はいつも通り酒場で立ち働いていた。  酔って肌を赤黒くした客が、仲間に向かって得意げに話しているのが耳についた。 「おい、聞いたか。一週間前のゲットー蜂起の件だが」 「知ってるよ。魔族共の最後の悪あがきだろ? 一匹残らず踏み潰したって話じゃないか」 「ここだけの話だが、当局の追及を逃れた奴が一匹いるらしい」 「ほう。で?」 「それが、例の「金髪」らしい。蜂起の首謀者だ。一番重要な奴を逃したってんで当局は血眼で探していたらしいが、遂に明日事実を公表するらしい。通報者には賞金1000ドゥッカーテンだとよ……」  賞金という言葉に、酒場は静まり返った。  その事件については私も知っていた。首府には魔族専用の居住区(ゲットー)が設定されていて、そこでのみ彼らは生存を許されていた。  彼らは戦線に呼応して、遂に暴動を起こした。  いや、暴動などという言葉では生ぬるい。それは紛れもなく反乱であり、蜂起であり、戦闘だった。激戦の末、かの種族は殲滅された。  私は疲労でぼんやりとした頭で、1000ドゥッカーテンという金額について考えていた。それだけあれば、あのインスラに別れを告げることができるのだが……
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