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何日もしないうちに帯人はたくさんの人達と仲良くなり、気が付けば人たちの輪の中で笑っている。
「おれ、しろうって言うんだけど、どう書くのかなぁ?」
「私も四郎ですよ。こう書きます。」
そう言うと帯人は砂の上に字を書く。
「オオー。」
と、声が上がりオレもオレもと人だかりが出来る。
令は、寺の和尚様が言っていたことを思い出す。
「帯人には私が遠い昔に持っていたかもしれない何か善いものが、たくさんある。」
( 本当にその通りだ。)
と、令は思う。
( 私は人に、にっこり笑って話しかけるなんて絶対出来ない。)
皆が仕事に戻り、やっと一人になった帯人に令は近ずく。
砂の上に書いた文字が、波に消されていく。
それを静かに見ている君の後ろ姿を見て、今のこの景色を決して忘れることはないだろうと思う。
君の美しい後ろ姿。
どこにも贅肉のついていない身体に、長い手足。
美しい身体に美しい優しい心を持つ男。
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