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「好きな人に恋人ができて以降、神永さんはその人とは音信不通状態ですか?」 「いやいや。全然会ってるよ。もうしょっちゅう」  職場の人間だろうか。しかし神永からは特に気まずさは感じられずからっとしているので、おそらくはその後相手と友好関係を続けられているのだろう。そもそもこの男はねちねちと根に持つとか相手を逆恨みするなんてことは一切無縁に見える。 「しょっちゅう会うなら気まずいとかつらいっていう感情はないですか?」 「そういうのはないね。だったらそもそも避けるし」 「じゃあもう相手に対して未練はないんですか?」 「幸せになってほしいって思う。そのためなら俺は何でもしてやりたい。それだけ」  その言葉に胸が熱くなった。  本気で好きだった相手に失恋して、つらい状況を乗り越えて、最終的に相手の幸せを願える。  それが本当にその人を愛しているということではないのか。  もし同じ状況なら宝来はそれができるだろうか。水落を失ったら、別の人間との幸せを祝福できるだろうか。  今はとてもできそうにない。無理だ、と思う。  彼への愛情はこれ以上なく深いつもりでいる。でもまだ足りないのだろうか。  自分の欲を捨ててまで相手に尽くすほどの気持ちがないと、それは本当の意味での愛情ではないのだろうか。 「…神永さんは素晴らしい人だと思います。人ってやっぱり表面的なイメージではわかりませんね」 「え、どういうイメージ? 水落さんよりましでしょ?」  はい。水落さんよりはましですけど。 「あ、これも水落さんには言わないでよ? ていうか今日のは全部水落さんには秘密ね!」  結局水落が怖いのだな。口封じする気持ちがわからないでもないから苦笑とともにうなずいた。
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