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 違うの? そうじゃん。俺らが許すってなっても法律は許さないでしょ。だから然るべき場所で裁かれる。それって当たり前のことで、俺が独断で決めたことでもなくて、俺が残酷だからその制度を利用してるわけでもなくて、国が決めてることなんだよ。日本だけじゃない。悪いことをしたら捕まって裁かれるのはどの国も同じ。共通して制度として成り立ってる。何の問題があんの?  そんな理屈を繰り出してくる。  問題はありません。ありませんけど。  そんな返ししかできない。  宝来が水落を言い負かすことができるのはせいぜい、彼が打ちひしがれて理論する気がない時、そして自分たちの関係や水落自身の問題について話し合う時くらいのものだ。  だから宝来が仮に『もう長期間関わりたくないので示談にして終わりにしたい』という結論を彼に伝えたところで『宝来くんは何もしなくていいから。俺が全部やるから。君に負担を強いることはしないしさせないから安心して』などと言うだろう。  そうじゃない、と反論しようにも、巧く説明できず終わる。  実際、口が達者というだけじゃなく、水落は正論を言っている。間違ったことは何も言っていない。だから反論の余地がないのだ。しかもこと法律に関しては桁違いに彼の方が知識がある。あの手この手で正論を固めてくる。そうやって二十年以上人を言いくるめてきたのだから敵うわけがない。  でも、理屈じゃないものがある。  確実にある。  それをわかってほしい。言葉で敵わないなら、どうやってわかってもらえるというのだろう?  どうやって伝えたらいいのだろう?
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