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 だってこれくらいで外聞が、人からのイメージが、と言っていたら、悪魔と呼ばれ罵られた幼少期は乗り越えられない。二十五年それを背負って生きてきてんだよ。今さら何言ってんの。それくらいで脅したつもり? と余裕でいられる。  しかし、問題は宝来だ。  ここでも彼の存在がネックとなる。  宝来は水落ほど人からの評価や噂を気にしないわけではないはずだ。  彼だって水落同様、親の逮捕により世間からバッシングを受けた人間だから、そのへんについては慣れているだろう。  ただ、ゲイだの同性愛だのと罵られることは彼にとって不快で、羞恥心や劣等感を否応なく与えてしまうに違いない。水落よりずっと繊細だから。  もし『そのくらい平気です』と最初は答えたとしても、実際裁判が始まったらわからない。やはり耐え難いと思うかもしれない。今からでも被害届を取り下げたいと思うかもしれない。  以前彼がセクハラされた時だって、水落は訴えろと言ったことがあるが、宝来は応じようとしなかった。  その時はそんな平和主義の彼に焦れたが、今はとても当時のように彼を焚きつける気にはならない。  嫌だろうな、と彼の気持ちを汲み取れる。  この違いは、変化は、何なのだろう?
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