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流石の話術だね。感服したよ。交渉力、説得力もあったし、共感もできた。
いや、共感を引き出す言い方をわざとしている。
クライアントを豚呼ばわりか。敵を同志と呼ぶのか。最高だね。
宝来ならとっくにほだされているだろう。懐柔されていただろう。
「そうだね。彼にも相談してみるよ」
一切反論せず笑顔を返すと、黒羽は意外だったのか少し驚いたが、また余裕の笑みを浮かべてコーヒーを飲んだ。
これは強敵だ。
あとは、宝来がどう判断するか。こちらで独断で決められる問題ではない。おそらく水落の意見とは食い違うだろう。その時、どうすればいいのか。
全面的に彼に合わせるべきか。
自分の意見を通すべきか。
どちらにしても、このままいくと揉める事態は避けられない。
また今までと同じことをくり返すのか?
これ以上宝来も自分も傷つけて、傷つけられて、何の意味があるのか。
合わないまま無理して関係を続けていく二人に未来はあるのだろうか。
誰か。
誰か、教えてほしい。
いつも答えがほしくて、もがいて、苦しんで、気が狂いそうになるくらい考えて考えて考えて、答えが出ない。
いや、もう答えは出ているだろう。
自分がそれから目を逸らしているだけのことだ。
答えはとっくに出ている。
宝来を傷つけたくない。
不幸にしたくない。
じゃあそれが、答えじゃないか。
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