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「ただのガキ時代の怨恨がここまでの事件に発展するとは思わなかった。昨日は検事正にまで呼び出し受けたしさあ」 「検事正って東京地検のトップだっけ?」 「そうそれ」 「そんなお偉いさんまで飲み友達なの?」 「そんなわけないじゃん。事件が大ごとになったから『どうなってんだ?』って聴きたかったんじゃねえの」 「事件そのものの規模もさることながら、その背景で政治家から官僚から色々動かしちゃったから?」 「それ」  柳井検事正とは面識がないわけではないが、別に懇意の関係ではない。  だから既に聞き及んでいるはずの事件の概要について改めて簡単に問われ、事務的に回答した。  しかし柳井が聴きたかったのは事件そのものよりも、やはり水落と親交のある者について。  今回の事件によって動いたのが名だたる人間ばかりで、おそらくはそれが柳井の耳にも届いたのだろう。そこを主に突かれた。 『君の人脈の広さについて耳にはしていたが、既に特捜部のエースとしての範疇を超えているね。もちろんいい意味で、だが』  褒めているのか嫌味かわかりかねる言い回しだった。本革張りの黒椅子にかけ、余裕を漂わせた重鎮の笑みは迫力を醸していたが、それでも何故か好意的に見えた。
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