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『ありがとうございまーす』  評価している、などと面と向かって口にされれば礼を言わなければならないだろう。真に受けずさらりと社交辞令を返すと、柳井は思わせぶりに口角を上げた。 『君は大物から人気がある割に、媚びる姿勢は一切見せないね。生意気だという意見もうなずける』 『あーすみません。媚びたほうが良かったですかね』 『いや、そういう意味じゃない。君の何が魅力なのかと興味深かったが、何となくわかったよ』  こっちこそその魅力とやらは知らないが、まあ知りたいことがわかったならそれでいい。 『さて、今回の報復事件だが、警視庁が捜査に乗り出し、ただの傷害事件として収束できない事態となっている。直接的な被害者は君の親しくしている国税職員…今は亡き宝来議員の息子だそうだがね。この件について君はどう考えている?』 『既に犯人検挙に至っているので、後は争訟において勝ちをもぎ取りたいと思っています』 『そうか。当然の考えだ。では地検側からの意見を述べよう。この事件を軽んじべからずとし、裁判においても検察の威信をかけて臨むよう指示したい』  その言葉により、今回の事件は検察庁全体を背負っており、責任重大であると証明された。
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