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「そうなんだろうけどさ…」  拗ねた声でぼやいたところで髪にシャワーの湯がかけられた。丁度いい温度。また眠気がやってきた。 「まだ起訴か不起訴かも出ていないんだよね? 裁判が始まればまた長丁場になるんだろうし、水落もあまり思い詰めないことだね」 「裁判もなあ…俺が証言なんかをする分には全然平気なんだけど、宝来くんに負担かけるのがなあ」 「彼も国税の人間なら裁判についてまったくの無知ではないはずだし、怖がるとか緊張するっていうことも少ないだろうと思うよ。それに華奢で若いから頼りなく見えるのかもしれないけど、僕は宝来くんは芯がしっかりした子に見えたけどな。案外水落より内面が強いかもしれない」  言い当てられてしまった。  そうだろう。そうだと思う。宝来のほうがずっと強い。  暴漢に襲われても大きな動揺はなく、誰かにいてもらわないと不安だとか頼りたいとかそんな脆さはなかった。  女のような見た目でも、中身は精神的に自立した男だ。  そう、宝来は男。だから女のように自分を頼ってくれると考えてはいけない。  むしろそういう考えは彼に対して失礼に当たる。  宝来を男として見てきたつもりだったが、完全にそうではなかった自分にも気づかされた。
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