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「土井本先生も逮捕後ずっと只志さんのことを気にされてましたけど、不祥事をもみ消す後ろ盾がなくなった今、只志さんが大きなトラブルを起こして大ごとに発展させるのも時間の問題でしょうね」 「父親の逮捕後にさらに荒れたからな。三十越してあれってことは、もう更生の余地はねえな。俺ももうお手上げだよ」 「いやいや、黒羽さんに頑張っていただかないと我々も困ります。頼りにしてますから」  クライアント側が逆に祐嗣にぺこぺこと低頭している。ありえない構図だ。  土井本議員が失脚した今、側近の彼らは明日のわが身を案じているほどに求心力を失い、不安定なのだろう。そんな中、息子にまで騒動を起こされては敵わない、と嘆く彼らの気持ちはわからないでもない。  やはり議員事務所も大変そうだ。そちらへのツテも考えていたが、どうも畑違いとしか思えない。  祐嗣はそのまま土井本の件に引っ張られていたので、尊は再度会場内で『ユキくん』、いや星名の姿を捜してみたが、もう彼の姿を見つけることはなかった。既に帰ったのかもしれない。  花びらを巻き上げる一陣の春風のようなあの出来事はやはり夢だったのか。  不思議な感慨にふけっていると、帰宅した頃合いに携帯にメールが届いて仰天する。  星名からだった。 『今日は再会できて嬉しかったよ。今度いつ会えるかな?』  うわあ。  本当に誘いがきた。  喜びの余り、にやけながら何度もメールを読み直し、こちらの予定を返信した。そのまま就寝のためベッドに入ったものの、興奮してなかなか寝られなかった。
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