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約束をした日の夜、仕事帰りに星名と会うことになっていた。
時間や待ち合わせ場所などは特に決めず、『仕事が終わったら連絡してほしい。近くに迎えに行くから』とのことだったので、都心で打ち合わせを終えたところで彼にメールを入れた。
すると打ち合わせに使ったホテルまで高級外車で迎えにきてくれて、流石に恐縮した。仕事上、金持ちに会う機会が多いので見慣れてはいるが、車に乗り込むことはそう多くない。打ち合わせや会食は大概が現地集合現地解散で終わるからだ。
しかし数千万はするだろうこの車は、と思いながら助手席で縮こまっていると、それを察してか星名が自らフォローしてきた。
「父や事務所の人間を送迎することが多いから自分の車みたいにして乗っているけど、事務所の車だから気にしないでね」
「そうなんですね」
とは言っても事務所の所有物イコール星名家の所有物だろう。そう思ったがつっこまずに笑顔で流した。
それにしても車内で星名と二人きり。緊張する。
何か失態をしたらどうしよう。行儀やマナーがなってないと思われたらどうしよう。
毒舌は絶対に出さないようにしなければ。
そんな緊張を気取られないように窓の外の景色を眺めるなどするのだが、きっと動揺は悟られている。
それでもそんな尊を和ますように星名は会話を振ってくれる。
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