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「…知らなかった。そうだったんだね。母にも何度か訊ねたんだけど、引っ越しの事情もその後の居所もよく知らない、音信不通だと聞かされていたんだ。でも母親同士は親しかったから暴力や離婚の話は明かされていたかもしれないね。僕が子供だから言わなかっただけで」 「そうかもしれませんね」  その会話によって少しばかり沈黙になってしまって、初っ端からこんな暗い話を明かすんじゃなかったかな、軽く流せば良かった、と後悔した。 「…お父さんのその後も知らないの?」 「いえ。小父さんから『酒で身体を悪くしてそのまま病死した』と離婚の数年後に聞きました。葬式なんかは出ていません。墓もどこにあるか聞いていません」 「そう…。そんなに大変な事情があったなんて知らなくて、気軽に訊いてしまって心苦しいよ」 「それは別に、もう十五年以上前の話ですから割り切ってます。本当に気にしないでください。星名さんには報告しておくべきことだと思ったので正直に言っただけですから」 「山井弁護士事務所でお世話になっていたっていう話だけど、その後不自由な思いはしていなかった?」 「裕福な家庭でしたから大学まで行かせてもらいましたし、何不自由ない生活でした。優しいご夫婦でよくしていただきました」  その答えに安心したのか、星名はほっと息をついていた。
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